【営業スキルを副業で活かす】地方企業の輸出支援と海外展開を支える新しい働き方

国内市場の縮小や人口減少が進むなか、地方企業は輸出や海外展開に活路を見出しています。しかし、その実現には 販路開拓や海外営業の専門スキル が欠かせません。一方で、企業内で培った営業経験を副業として活かし、地方企業の輸出支援に貢献する人材活用の流れが広がっています。
本記事では、統計データや成功事例を交えながら、営業スキルを副業として活かす意義、そして企業・人材双方にとってのメリットを解説します。

リクルートワークス研究所の調査によれば、副業・兼業を認める企業は近年増加傾向にあり、2024年度には全体の3割超に達しています(出典)。企業が外部人材に期待するのは「自社にない専門スキルの導入」であり、特に 営業や海外営業の経験 は即戦力として評価されています。

さらに、パーソル総合研究所の調査によると、すでに受け入れている、または受け入れを検討している副業者の職種で最も多かったのは「営業」で19.6%だった。市場需要が高い「ITエンジニア」や「情報システム関連」よりも「営業」人材の需要が高く、営業職は副業で活躍する主要な職種のひとつであることが明らかになっています。

【出展】パーソル総合研究所「副業に関する調査結果(企業編)」

営業スキルは「販路開拓」「顧客折衝」「提案力」など汎用性が高く、他社や地方企業でも即活用できるため、副業市場で特に需要が高いとされています。

また、農林水産省の発表によれば、日本の農林水産物・食品の輸出額は、2012年の約4,497億円から12年連続で増加し、2024年には1.5兆円を初めて突破した。出典)。輸出拡大のチャンスが広がる中、営業スキルを持つ副業人材が地方企業の輸出支援に関わる意義は一層高まっています。


中小企業庁「中小企業白書」や内閣府の分析でも、地方中小企業にとって輸出の大きな壁は 「販路の確保」「人材不足」 にあることが指摘されています。

さらに、中小機構が2024年3月に実施した調査では、海外展開の課題として下記項目が上位に挙げられています。

  • 海外事業に対応できる人材がいない(32.9%)
  • 為替変動リスク(32.9%)
  • 信頼できる現地パートナーの開拓ができない(31.9%)

【出典】中小機構「中小企業の海外展開に関するアンケート調査」(2024年)

特に「海外事業に対応できる人材がいない」という課題は、営業職の重要性を如実に示しています。海外営業は単に言語対応にとどまらず、現地市場の理解、販路開拓、パートナー交渉、契約・決済管理など多岐にわたる専門性を必要とします。

つまり、営業スキルを持つ外部人材や副業人材が地方企業の輸出支援に参画することは、まさにこの「最大のボトルネック」を補う解決策となるのです。


営業経験者が副業として地方企業に参画する場合、単なる「人手の補充」ではなく、企業の輸出成長を加速させるドライバーとしての役割を果たせます。

主な役割については下記が挙げられます。

戦略立案

ターゲット市場の調査・分析、輸出国の選定、価格・販促戦略の設計などを担います。
例えば、輸出相手国によって消費者ニーズや規制が異なるため、国内と同じ営業手法では通用しません。営業経験者が持つ市場分析力や顧客理解力は、輸出戦略を現実的かつ実行可能な形に落とし込むうえで不可欠です。

Expert’s voice

自社商品の立ち位置を知り、戦略を練る(株式会社パコロア 小川陽子さん)

海外市場で売れない理由には「高い」「短い消費期限」「現地レシピにない」「輸出先の日常にない」などがあります。参入障壁が高い場合は、市場調査設計や項目を工夫し、“売れない理由”を“売れる理由”に変えていきましょう。

出展:「おいしい日本の届け方」P71

商談前支援

英語や中国語など多言語での営業資料・プレゼン資料の作成、ブランドストーリーの構築を支援します。
地方企業が自社の強みを海外で効果的に伝えるためには、「翻訳」以上の表現が必要です。顧客課題の解決ストーリーや競合との差別化を整理できるのは、営業経験を積んだ人材ならではのスキルです。

Expert’s voice

現地の文化への理解と尊重が信頼構築に(株式会社IAC 秋島一雄さん)

海外と取引する際、特に継続的なビジネスを目指すなら、相手への理解と尊重が重要なカギになります。語学力よりもコミュニケーション能力や論理的思考が大切で、これらを意識した準備が信頼構築につながります。

出展:「おいしい日本の届け方」P71

実行支援

海外バイヤーやパートナーへのアプローチ、オンライン商談のファシリテーション、リード獲得を担います。
特に輸出においては「初回の信頼構築」が重要であり、交渉経験豊富な営業人材が同席することで商談の成功確率は大幅に向上します。

Expert’s voice

営業力と提案力で商機をつかむ(COUXU株式会社 井口卓也さん)

海外では営業スピードが極めて速く、アポイント当日に見積もりを送るほどです。スピーディな対応に加え、相手のニーズに合う提案力を備えることで、商談のチャンスを確実に掴めます。

出展:「おいしい日本の届け方」P71

仕組み化

営業プロセスの標準化、SFA/CRM導入、若手人材のOJTを通じて組織全体の底上げを図ります。
外部人材が一時的に成果を出すだけでなく、「再現可能な営業の型」を残すことで、企業は継続的に海外展開を進められるようになります。

これらの役割は営業職経験者にとっては日常的な業務ですが、地方企業にとっては不足している「輸出展開に必要な専門性」です。特に 海外営業に対応できる人材がいない企業は32.9% に上る(中小機構調査 2024)ことからも、外部から営業スキルを取り込むことの重要性が明確に示されています。

外部人材や副業人材の活用は、実際に多くの地方企業の輸出拡大を後押ししています。ここでは、伝統産業から畜産業まで、多様な分野で人材活用を通じて成果を上げた事例を紹介します。いずれも 「営業スキル」や「海外営業の知見」 が輸出支援の成否を大きく左右していることが分かります。

有限会社栄醤油醸造(静岡県掛川市)

創業1795年の老舗。北米や欧州市場で木桶醤油をプレミアムブランドとして確立するため、副業人材を募集。
リクルートの「サンカク」を通じて38名の応募が集まり、海外営業経験者とWebマーケティング人材を採用しました。
一人は欧州在住で、レストランを訪問しながら市場調査やヒアリングを担当。もう一人はWeb・デジタルに強く、ディストリビューターの初期開拓を中心に、商談に必要な情報整理などに貢献。

れんこん三兄弟(茨城県稲敷市)

欧州やアジアに加えて、米国・中東市場の開拓に挑戦。アメリカ在住の副業人材や総合商社出身の経験者を採用し、現地ネットワークや商談候補先を具体化しました。短期間で輸出戦略の方向性を描くための重要な情報を得ることができ、販路拡大に向けた基盤を強化しました。

【出典】農林水産省 GFP資料


地方企業にとって輸出は成長のチャンスであり、人材活用はその鍵です。

農林水産省の 「おいしい日本、届け隊」 は、企業と副業・専門人材をマッチングし、輸出支援を通じて地方創生を支援しています。

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※本記事は関係者の取材・発言をもとに構成されたものであり、記載内容は執筆者または取材対象者の見解によるものです。農林水産省の公式見解や方針を示すものではありません。