【輸出支援と地方創生】外部人材の活用で地方企業が直面する「輸出の壁」を突破

日本の地方は、人口減少や国内市場の縮小といった課題に直面しています。その中で「輸出支援」と「人材活用」を組み合わせた地方創生の取り組みが注目されています。

海外市場の需要を取り込みつつ、都市部や海外で経験を積んだ副業・兼業人材を採用・活用することで、地方企業は販路拡大と地域経済の持続可能な成長を実現できます。

本記事では、統計データや具体的な成功事例を交えながら、地方創生における輸出支援と人材採用の可能性を解説します。

総務省の推計によれば、日本の人口は2070年には9,000万人を割り込むと予測されています。

特に地方では人口減少と高齢化が同時進行しており、地域経済の縮小や担い手不足が深刻な課題となっています。

こうした状況の中で、地域産品の輸出は新たな市場を開拓し、国内需要の減少を補う有力な手段となります。世界的な和食ブームや健康志向の高まりを背景に、日本の農林水産物や食品は海外で高い評価を得ており、地域資源を「外需」に結びつけることで持続可能な収益源を確保できます。

【出典】「人口推計(総務省統計局)」

国内人口減少が進む中で、海外市場の開拓は地方創生に不可欠な戦略です。

特に東南アジアは、1人当たりGDPの上昇と都市部の急成長を背景に、食品の「必需品消費」から「プレミアム消費」へと移行しつつあり、日本の農林水産物・食品にとって極めて有望な市場です。実際に、東南アジア各国ではモダントレード(スーパー・コンビニ)の普及や冷蔵庫世帯普及率の上昇が進み、日本食品を安定的に流通させる基盤が急速に整備されています。

こうした環境の変化を受け、日本の農林水産物・食品輸出額は2012年から12年連続で増加し、政府も2030年に5兆円規模の輸出目標を掲げるなど、官民一体で海外展開が加速しています。

また海外展開は「輸出」だけにとどまらず、現地生産、食品製造、物流・卸売、小売・外食といった各分野において、日本のノウハウや品質管理力、商品開発力を活かした多様な事業機会が広がっています。
海外市場で得られる知見やデータは、国内の商品開発や事業高度化にも還元され、結果として地域産業の競争力強化と持続的成長につながる重要な戦略となっています。

【出典】NRI|東南アジアにおける食産業のビジネス


人口減少と国内需要の縮小が進む中、地方の中小企業にとって輸出は重要な成長選択肢です。しかし実態を見ると、2021年度の直接輸出企業割合は中小企業で21.0%、大企業で28.1%直接投資企業割合は中小企業14.2%、大企業32.0%と開きがあります。

【出典】中小企業庁 中小企業白書2024

このギャップの背景には、地方中小企業特有の複合的なハードルがあります。
中でも「直接輸出(=現地バイヤーや小売店と自ら取引する形態)」は、下記のような要因から難易度が高いとされています。

【出典】おいしい日本の届け方:P69

  • 手間とコストがかかる:商談、契約、出荷、通関、代金回収までを自社で対応する必要があり、人的・時間的負担が大きい。
  • 代金回収やトラブルのリスクを自社で負担:現地との与信管理や契約トラブル対応を自前で行う必要がある。
  • 現地事情への知見や販路・ノウハウが不可欠:輸送・保管環境、商習慣、規制対応など、国・地域ごとに異なる条件に適応しなければならない。

一方、「間接輸出」は商社や代理店など中間業者を介して海外に商品を届ける形態で、リスク軽減や業務効率の面で中小企業にとって現実的な選択肢となるケースも多く見られます。

ただし、間接輸出では利益率が低下しやすいという側面もあるため、どの形態を選ぶかはコスト・リスク・販売力のバランス設計が重要です。

中小企業白書によると、海外展開を長期で進めてきた企業ほど売上や収益へのプラス影響が強い傾向があり、単発ではなく中長期の「仕組み」として取り組む重要性が高いです。また、検討段階から支援機関を活用した企業は、輸出の実施率が高い傾向も示唆されており、外部の知見・ネットワークを早期に取り込むことが実行確率を高める鍵になります。


近年、日本の農林水産物・食品の輸出は着実に成長を続けています。2024年の輸出額は 1兆5,071億円 と過去最高を更新し、初めて 1.5兆円 を突破しました。和食ブームや健康志向の広がりを背景に世界市場での需要は今後も拡大が見込まれます。

一方で、そのチャンスを十分に活かしきれていない現状も浮き彫りになっています。民間調査会社のアンケートによれば、海外展開をしていない中小企業が最も強く感じている課題は「販売先の確保」であり、次いで「現地市場の動向・ニーズの調査」、「海外展開を主導する人材の確保」、「信頼できる提携先・アドバイザーの確保」が続きます。これらの項目で全体の6割以上を占めており、多くの中小企業がマーケティングや人材面で大きな壁を感じていることが明らかになっています。

大企業に比べて人員や資本力が限られる中小企業では、販路開拓や市場調査を十分に行うことが難しく、また言語や制度の違いも相まって、海外事業を担う人材や信頼できるパートナーの確保が一層困難となります。これが輸出への大きなハードルとなり、挑戦の足かせとなっているのです。

【出典】内閣府「日本経済2022-2023:第3章 企業部門の動向と海外で稼ぐ力(第3節)」

こうした課題に対して注目されているのが、副業・兼業人材の活用です。リクルートワークス研究所の調査によれば、副業・兼業を認める企業は近年増加傾向にあり、2024年度には全体の3割超に達しています(出典)。企業側は、副業・兼業人材を活用することで、自社にはない専門的なスキルや最新の知見を柔軟に取り込める点を評価しており、この流れは一層拡大すると見込まれます。

中小企業にとっても、この変化は大きな追い風です。フルタイム採用に依存せず、必要なスキルを短期的・部分的に活用できる選択肢が広がったことで、海外展開や輸出に不可欠なマーケティング・語学対応・規制対応といった専門領域の人材を確保しやすくなりつつあります。


地方企業にとって輸出や海外展開は成長の大きなチャンスである一方、専門性・人材不足が大きな課題です。
近年では、副業・業務委託といった柔軟な形で、専門知見を持つ外部人材と連携しながら輸出体制を強化する動きが広がっています。

外部人材が担う主なタスクと実践例

① 市場リサーチ・輸出先選定
海外市場の規制・商習慣・価格帯・競合動向を調査し、自社商品の「強み」が活かせる国や販路を特定。
現地消費者アンケートや展示会での反応をもとに、輸出先の優先順位づけを行います。

② 商品のローカライズ・ブランド設計
パッケージ・原材料表示・キャッチコピーなどを現地の言語・文化・規制に合わせて調整。
また、商品ストーリーやデザインを再設計し、“日本らしさ”と“現地消費者への親和性”を両立させます。

③ 越境EC運用・販促プロモーション
Shopeeや、Shopify、Amazonなどのプラットフォームで商品登録・広告運用・レビュー対応を代行。
SNS連携によるキャンペーンや、インフルエンサー(KOL)を活用した拡散施策も実施します。

④ 商談・販路開拓支援
オンライン商談や展示会同行を通じ、現地バイヤー・輸入業者との接点を拡大。
輸出条件(価格・ロット・物流方法)交渉やサンプル提供までを伴走支援します。

⑤ 体制構築・実務オペレーション
インボイス制度対応、通関書類の作成、認証取得(ISO・FSSC等)、為替リスク管理など、日々の輸出実務を効率化する業務支援を行います。

【出典】株式会社パコロア「パコロアでの海外進出が成功する理由」

こうした外部人材の活用は、単なる人員補充ではなく、輸出推進の戦略パートナーとして機能します。
マーケティング・ブランド設計・EC運用・貿易実務といった複数領域を“タスク単位”で切り出すことで、中小企業でもリスクを抑えながらスピーディーに海外展開を実現できます。

外部人材や副業人材の活用は、地方企業の輸出展開における大きな突破口となっています。社内に不足する専門スキルを補い、新しい視点やノウハウを取り込むことで、地域資源を海外市場に届ける力が高まります。下記に人材活用を通じて輸出拡大やブランド強化に成功した事例を紹介します。

江田畜産(宮崎県高原町)

黒毛和牛を生産する江田畜産は、「おいしい日本、届け隊」を通じて海外営業やマーケティングを担える副業人材を活用。輸出に必要な調査・商談を外部人材がリードし、スピーディーな海外販路拡大につなげています。

栄醤油(静岡県掛川市)

1795年創業の栄醤油は、昔ながらの木桶造りによる天然醸造を守り続けてきました。
国内市場の縮小を受け、「木桶仕込み醤油輸出促進コンソーシアム」に参画し、北米・EUを中心に“木桶醤油”の価値を世界に発信。海外販路の開拓に向け、副業・業務委託人材を活用し、現地での市場調査やディストリビューター開拓を進めています。
外部人材との協働を通じて販路設計の課題を可視化し、初期実績を獲得。輸出体制の強化と生産拡大に向け、次のステージへと歩みを進めています。


地方企業にとって輸出は成長のチャンスであり、人材活用はその鍵です。

農林水産省の 「おいしい日本、届け隊」 は、企業と副業・専門人材をマッチングし、輸出支援を通じて地方創生を支援しています。

参加するメリット

  • 専門スキルの即戦力活用
    海外展開に必要な知見(販路開拓・規制対応・翻訳・ブランディング等)を外部人材から短期・部分的に獲得可能。
  • コストを抑えた柔軟な活用
    フルタイム採用に比べ、必要な時に必要な分だけ人材を確保できるため、リスクを抑えて輸出をスタートできます。
  • 共創による成長戦略
    人材活用と輸出支援を一体化することで、地方企業の「輸出=地域の成長エンジン」として機能。ブランド力強化や雇用創出にもつながります。

「おいしい日本、届け隊」への登録は無料です。
輸出に挑戦したい地方企業の方、副業やプロ人材として参画したい方は、ぜひ以下よりご登録ください。

※本記事は関係者の取材・発言をもとに構成されたものであり、記載内容は執筆者または取材対象者の見解によるものです。農林水産省の公式見解や方針を示すものではありません。