海外で「選ばれる」パッケージとは?現地に伝わるデザインの考え方と【6つの実践ステップ】

海外への販路拡大を考えたとき、「商品のパッケージを海外向けに変えた方がよいのだろうか」と悩む事業者の方は多いのではないでしょうか。

英語を大きく入れる、日本らしいデザインにする、海外ブランドのような雰囲気にするといった、さまざまな方法が考えられます。しかし、海外向けのパッケージデザインで重要なのは、単に見た目を「海外らしく」することではありません。

自社の商品が持つ価値を明確にしたうえで、「その価値が、現地の消費者にはどのような表現なら伝わるのか」を考える必要があります。

国や文化が変われば、「健康的」「高級」「自然」「清潔」といった価値を感じさせる色や形、写真などが異なることもあります。一方、日本の伝統食品や工芸品など、日本らしさそのものが商品の価値になっている場合は、むやみに現地向けに変えない方がよいこともあります。

本記事では、海外向けのパッケージやブランドデザインを考えるうえで押さえておきたい「デザインキュー」や「カテゴリーコード」という考え方から、市場リサーチ、ローカライズ、デザイン制作の進め方までを解説します。

目次
  1. 海外向けパッケージは「海外っぽく」すればよいわけではない
  2. 「デザインキュー」と「カテゴリーコード」を理解する
  3. 現地化とブランドらしさのバランスをどう取るか
  4. 「日本らしさ」が価値なら、変えないことも戦略になる
  5. 日本では当たり前でも、海外では違和感になる
  6. 海外向けパッケージは「売り場」から考える
  7. 海外向けデザインを進める6つの基本ステップ
  8. まとめ

1. 海外向けパッケージは「海外っぽく」すればよいわけではない

海外向けの商品デザインを考える際、まず知っておきたいのが、国や文化によってデザインの受け取られ方が異なるということです。

以前、私がグローバルのブランドコンサルティング会社で日用消費財のデザインに携わっていた際、あるサプリメント商品のパッケージについて消費者調査を行ったことがあります。

日本では、健康的でナチュラルな印象を与える、明るく爽やかで柔らかな色調のデザインが好まれました。ところがアメリカの消費者からは、より濃い色を使った大人っぽくシックなデザインの方が、「効きそう」「効果がありそう」という評価を得ました。

そのため、ブランドの基本的な世界観は維持しながら、日本向けと海外向けで異なるデザインが展開されることになりました。

ここで大切なのは、「日本人は淡い色が好きで、アメリカ人は濃い色が好き」という単純な話ではありません。ブランドが伝えようとしている「健康」や「効能」という価値そのものは同じでも、その価値を感じさせる表現が異なっていたということです。

つまり、海外向けデザインで求められるのは、ブランドの価値を別のものに変えることではなく、同じ価値が現地の消費者にも伝わるように、表現を翻訳することです。

2. 「デザインキュー」と「カテゴリーコード」を理解する

海外向けのパッケージを考えるうえで役立つのが、「デザインキュー」と「カテゴリーコード」という二つの考え方です。

まず、デザインキューとは、ある価値やイメージを連想させる色、形、写真、モチーフ、文字などの視覚的な要素を指します。

例えば、「クリーン」という価値を考えてみましょう。清潔、きれい、不純物がない、安心できるといった概念そのものは、多くの国で理解されるでしょう。しかし、「何を見たときにクリーンだと感じるか」は、文化によって異なる可能性があります。

日本であれば、真っ白な洗濯物や、キラキラと光るアイコン、白くミニマムな空間などから「清潔そう」という印象を受ける人は多いでしょう。日本独自のモチーフであれば、白木や和紙なども、清潔さを表現する要素になり得ます。

こうした、「これを見ると、この価値を感じる」という視覚的なスイッチが、デザインキューです。

一方、カテゴリーコードとは、その商品が「何の商品なのか」を消費者に直感的に理解してもらうため、そのカテゴリーで共通して使われている表現です。

消費者は、売り場で一つひとつの商品説明を熟読しているわけではありません。色、容器の形、写真、文字の大きさ、レイアウトなどを見て、「これはワインだ」「これは高級なお菓子だ」と短時間で判断しています。

整理すると、カテゴリーコードは「何の商品か」を伝えるもの、デザインキューは「どのような価値を持つ商品か」を伝えるものと考えると分かりやすいでしょう。

例えばサプリメントであれば、ボトルの形や成分名の見せ方によって「サプリメントである」と認識してもらい、そのうえで色や写真、文字のデザインによって「自然派」「高機能」「プレミアム」といった価値を伝えます。

海外向けのパッケージを考える際には、「現地でこの商品カテゴリーはどのように見せられているか」と、「自社が伝えたい価値は、現地ではどのような表現から連想されるか」の両方を調べる必要があります。

3. 現地化とブランドらしさのバランスをどう取るか

ここまで読むと、「現地の消費者が好むデザインに合わせればよい」と感じるかもしれません。しかし、実際のグローバルブランドの現場では、それほど単純ではありません。

ブランドを管理する側からは「それではブランドの世界観が変わってしまう」という意見が出る一方、現地の営業部門からは「このデザインでは現地では売れない」と言われることがあります。これは、グローバルブランドでは繰り返し起こる課題です。

現地の好みに合わせすぎれば、国によってまったく違うブランドになってしまいます。一方で、世界共通のブランドルールを厳格に守りすぎれば、現地の消費者に商品の魅力が十分に伝わらない可能性があります。

ブランドや商品によって最適なバランスは異なるため、一概にどちらが正しいとはいえません。そこで重要なのが、ブランドとして絶対に守るものと、各市場に合わせて変更してよいものを、あらかじめ決めておくことです。

例えば、ブランドロゴやブランドカラーそのものは世界共通にする。一方で、パッケージ全体に占めるブランドカラーの比率や、写真、コピー、情報の見せ方については、市場ごとに調整するといったルールが考えられます。

【ブランドとして変えないもの】

  • ブランドの核となる価値
  • ブランド名
  • ロゴ
  • 基本となるブランドカラー
  • 商品の品質やストーリー

【市場に合わせて変えてよいもの】

  • 商品写真や使用シーン
  • キャッチコピー
  • 情報の優先順位
  • レイアウト
  • ブランドカラーの使用比率
  • 現地語での商品説明

「変えないもの」と「変えてよいもの」を明文化しておけば、現地の営業担当者や代理店、デザイナーとの議論も進めやすくなります。

4. 「日本らしさ」が価値なら、変えないことも戦略になる

日本の商品を海外で展開する場合、すべての商品を同じ考え方で現地化する必要はありません。特に、日本の伝統や文化そのものが商品価値になっているケースでは、別の視点が必要です。

例えば、日本茶、日本酒、伝統的な調味料、和菓子、工芸品、地域の伝統雑貨などです。こうした商品を選ぶ海外の消費者は、「日本の商品であること」自体に魅力を感じている場合があります。

そこで重要になるのが、「Authenticity(オーセンティシティ)」、つまり本物らしさや真正性です。

この場合、無理に海外風のデザインへ変えてしまうことで、商品が本来持っていた魅力を弱めてしまう可能性があります。

日本語の文字、伝統的な模様、素材、色、独特なパッケージの佇まいなどを可能な限り残しながら、「これは何の商品なのか」「どのように使うのか」「何が特徴なのか」といった必要な情報だけを現地語で補足する方法も考えられます。

つまり、海外向けの商品だからといって、必ずしも「海外らしく」する必要はありません。まず確認したいのは、日本らしさそのものが商品の価値なのか、それとも味、品質、機能、利便性などが中心的な価値なのかという点です。

日本らしさそのものが価値であれば、日本らしさを守ることが戦略になります。一方、味や機能、品質などが中心的な価値であれば、その魅力が現地の消費者に伝わるよう、表現をローカライズする必要性が高くなります。

5. 日本では当たり前でも、海外では違和感になる

文化による違いは、色やグラフィックだけに表れるものではありません。商品の容器や使い方、文字の見せ方などにも影響します。

例えば、日本ではマヨネーズをチューブの容器から細く絞り出すことに、それほど違和感を持ちません。一方、マヨネーズを瓶からスプーンやナイフですくって使うことが一般的な国の消費者にとっては、チューブの形状や使い方そのものを「なぜこの方法なのだろう」と不思議に感じる場合があります。

日本の消費者にとって当たり前のことが、海外でも当たり前とは限りません。

そのため、海外展開では日本国内での常識を一度外して、商品のパッケージだけでなく、容器の形状や開け方、使い方まで含めた使用体験を見直すことが重要です。

また、海外向けパッケージでは、タイポグラフィ、つまり文字の見せ方にも注意が必要です。

日本語と英語では、自然に見える書体や文字間隔、文字の太さなどの感覚が異なります。例えば、日本語のタイトルでは、文字と文字の間隔を広く取ることで洗練された印象をつくることがありますが、同じ感覚で英文の文字間隔を必要以上に広げると、不自然に見える場合があります。

セリフ系の書体を過度に太くしたり、装飾的なフォントを使いすぎたりすることで、意図せずステレオタイプな印象や、読みにくい印象を与えることもあります。

英語を大きく使うパッケージでは、可能であれば英文タイポグラフィに経験のあるデザイナーや、英語を日常的に使用する人のチェックを入れることが望ましいでしょう。

翻訳するのは言葉だけではありません。文字の見え方や商品の使われ方まで含めた、体験全体を翻訳する必要があります。

6. 海外向けパッケージは「売り場」から考える

海外向けの商品デザインを考えると、「専門家でなければ分からない」と感じるかもしれません。しかし、最初にできることは意外と身近です。

それは、実際の売り場を見ることです。

現地に行けるのであれば、スーパーや専門店の売り場を確認します。海外に行けない場合でも、ECサイトやSNSなどを活用すれば、多くの情報を集めることができます。

例えば、次のような点を観察してみます。

  • 競合商品はどのような色を使っているか
  • どのような容器や形状が多いか
  • パッケージの正面には何が大きく書かれているか
  • 商品写真はどのように使われているか
  • 高価格帯の商品と低価格帯の商品では何が違うか
  • レビューではどのような価値が評価されているか
  • ECサイトやSNSではどのような見せ方をしているか

こうした情報を複数の商品から集めることで、その市場におけるカテゴリーコードやデザインキューが少しずつ見えてきます。

また、調査するのはパッケージだけではありません。ウェブサイト、ECサイト、SNS、広告、売り場など、消費者が商品と出会う「タッチポイント」を広く確認することも重要です。

そもそもブランドとは、ロゴやパッケージだけを指すものではありません。消費者が商品や企業とのさまざまな接点を通じて持つ、印象や体験の総体がブランドです。

だからこそ、パッケージだけを単独で考えるのではなく、「どのような人に、どのような価値を、どの接点で伝えるのか」という視点から考える必要があります。

7. 海外向けデザインを進める6つの基本ステップ

では、実際に海外向けの商品デザインを検討する場合、どのような順番で進めればよいのでしょうか。基本的には、次のような流れで考えると整理しやすくなります。

① 自社商品の本質的な価値を整理する

まず、「なぜこの商品を消費者が選ぶのか」を言葉にします。味、素材、品質、機能、伝統、製法など、自社にとって当たり前になっている要素も含めて洗い出します。

② ターゲットとなる市場・消費者を設定する

単に「アメリカ向け」「ヨーロッパ向け」「20〜50代の女性」と考えるのではなく、どのようなライフスタイルを送る誰が、どこで、どのような場面や気持ちで購入するのかを具体的に考えます。

③ 現地の売り場と競合を調査する

店舗、ECサイト、SNSなどから競合商品の色、形、コピー、価格、写真表現などを調べ、現地のカテゴリーコードやデザインキューを探します。

④ 変えないものと変えてよいものを決める

ロゴ、ブランド名、ブランドの核となる価値など、海外でも守る要素を決めます。同時に、写真、レイアウト、コピー、色の比率など、市場ごとに調整できる部分も明確にします。

⑤ 調査結果をもとにデザインする

ここで初めて、具体的なデザインに入ります。

「海外っぽいから」ではなく、「この市場でこの価値を伝えるために、このデザインにする」と説明できる状態を目指します。

⑥ 現地の視点で確認し、小さく試す

可能であれば、現地の消費者、バイヤー、デザイナーなどから意見を得ます。展示会、EC販売、商談、テスト販売など、小規模でも実際の反応を確認しながら改善していくことが重要です。

このプロセスでは、デザイナーを「最後にパッケージをきれいにする人」と考えるのではなく、できれば市場リサーチの段階から参加してもらうことが効果的です。

市場や競合を一緒に見ながら、「このブランドはどのポジショニングを取るのか」「何をデザインで伝えるのか」を整理することで、戦略とデザインをつなげやすくなります。

すべてを自社で行うことが難しい場合は、市場調査、ブランド戦略、パッケージデザイン、翻訳、英文タイポグラフィなど、必要な部分から外部の専門人材を活用する方法もあります。

まとめ

海外向けのパッケージデザインでは、まず「海外っぽい見た目」を考えるのではなく、自社の商品が誰に、どのような価値を届けるのかを明確にすることが出発点です。

そのうえで、現地の売り場や競合商品を調べ、「この市場では何がそのカテゴリーらしく見えるのか」「どのような表現が、自社の価値を伝えやすいのか」を確認します。そして、ブランドとして守る部分と、現地に合わせて変える部分を決めたうえで、デザインに落とし込みます。

日本らしさそのものが価値になる商品であれば、無理に変える必要はありません。一方、機能や品質などを訴求する商品であれば、現地の文化や感覚に合わせた「デザインの翻訳」が重要になります。

海外向けデザインは、センスやひらめきだけで決めるものではありません。

リサーチし、仮説を立て、デザインし、実際の反応を見ながら改善する。

このプロセスを踏むことで、ブランドらしさを守りながら、現地の消費者にも伝わり、売り場で選ばれるパッケージへ近づけていくことができます。

海外で選ばれるブランドづくりを相談したい方へ

海外向けのパッケージやブランドづくりでは、自社商品の価値を整理し、現地市場の文化や消費者の感覚に合わせて、適切な形で伝えることが重要です。

一方で、「ブランドの何を残し、どこを現地向けに変えるべきか」「海外の売り場で選ばれるパッケージをどう設計すればよいか」を、自社だけで判断することが難しい場合もあります。

ネスブランドデザイン株式会社では、海外市場を見据えたブランド戦略の策定から、ロゴ、タグライン、パッケージ・ラベル、ウェブサイトの制作まで、一貫した支援を行っています。

自社商品の価値を世界に伝わるブランドへ育てたい方や、海外向けのパッケージデザインにお悩みの方は、下記ページよりお気軽にご相談ください。初回の相談・ヒアリングは無料です。

執筆者プロフィール

ネスブランドデザイン株式会社 代表/クリエイティブディレクター 漆原 正行

多摩美術大学デザイン科卒業後、ディスプレイ会社でミュージアムの企画・設計に携わる。その後、ArtCenter College of Designに留学。卒業後はグローバルブランディング会社Landorのサンフランシスコオフィスに入社し、のちに東京オフィスへ移籍。

約15年にわたり国内外のブランド構築に携わり、海外ブランドの日本市場へのローカライゼーションや、日本ブランドの海外展開を支援。2018年、ブランドデザインに特化した「-ness」の活動を開始し、ブランド戦略からVI、各種コミュニケーションデザインまで一貫した支援を行っている。

※本記事は関係者への取材・発言をもとに構成されたものであり、記載内容は執筆者または取材対象者の見解によるものです。農林水産省の公式見解や方針を示すものではありません。