
オーストラリア・ニュージーランド市場は、日本食への関心が高い一方、多民族国家ならではの市場特性や、厳格な食品規制、広大な国土を前提とした物流など、日本とは異なる点が数多くあります。
現地で55年にわたり生活し、事業や情報発信に携わってきた経験をもとに、日本の食品事業者がオーストラリア・ニュージーランド市場へ進出する際に押さえておきたいポイントをご紹介します。
- オーストラリア・ニュージーランド市場は「一つの市場」ではない
- 各種規制は想像以上に重要
- 物流の落とし穴
- 販売は輸出した後が本番
- 現地で有効な広報・販促方法
- 現地メディアを活用する意義
1. オーストラリア・ニュージーランド市場は「一つの市場」ではない
常日頃、問い合わせの中で聞く言葉ですが「オーストラリア人って何が好きですか?」と。
現実的には国民の三分の一が海外生まれであり、英語圏とは言え3割程度は英語以外の外国語を日常的に使っている多民族国家となります。また、125年程の非常に若い国でもあり、日本人が考える既存の商習慣とは異なる部分も多々あります。
従い、一つでまとめられない市場となります。
どのようなマーケティング、販売促進、取り扱う商品がベストかと考える場合、特に多種に及ぶ日本食材の場合は一括りにオーストラリア人向けにと決めつけるとアジア系の富裕層には売れるが、西欧系一般人には全く売れないなどと予想が大きく異なってしまうケースが生じてしまいます。

中国系移民者が多い南シドニー地区Hurstilleでは住民の6割以上が自称「アジア系」という統計があります。彼らの食生活は日本食と西欧系の食べ物との融合がうまくいっており、全般的に本来の日本食材、例えば味噌、醤油、お酒などをはじめとする基本的な商品に定評があります。醤油ベースのトムヤム、味噌味の青椒肉絲、サラダに和風ドレッシングなど例を挙げたらきりがありません。Sydney Harbour Bridgeを越えた北シドニー地区、とくにChatswoodでは平均所得が高い東アジア系住民が多く、商品価格以上に製造国や内容を重視する傾向にあります。
例えば、Clemton ParkやSydney市内の南西部に住むギリシャ系住民(在豪州ギリシャ系住民の約四分の一)に対して、抹茶や高級和牛を売ろうとしても購入者は限られるでしょう。
このような傾向はニュージーランドでも同様であり、最大都市であるAuckland ですら人種別の居住地区があります。日系住民が多く住む地区、中国系、韓国系、南太平洋系が多く住む地区など日本食材を販売するためには人種や地区の違いを十分に知ることが重要なことかと思います。
例えば、南太平洋人(トンガ、サモア、キリバチ系)が住む地区に日系食品店は無く、販売を行う対象には上がらない地区となります。
一方、中国系(Auckland 市住民の約3割に近いと言われています)が多く住むEast地区やBotany地区では日本食材店、日系食材店、日本食レストランが多く存在しています。
両国とも「一つの市場」では無い事を十分に考慮しながら、皆様とともに現地のサポーター、例えば日系輸入卸業者、日本食材小売店、日系メディア、現地の日本人会、経済団体、日系ロジスティクス、在外日本公館商務部、JETROなど協力して頂ける方々とご一緒に時間をかけて見て回り、肌で感じ、情報を得ることが輸出の第一段階となると思います。
2. 各種規制は想像以上に重要
日本からの輸出に関して、初期の段階からの調査が必要となります。特に食品関連は、輸入国であるオーストラリア・ニュージーランドともに肉類や果物を始めとする食品に対する規制は世界的に見ても厳しく、添加物、梱包や商品パッケージ素材などを詳しく確認する事が重要となります。

例えば、現地の方々にも人気が出始めている冷凍納豆は、以前は白い発砲スチロールケースに入っていましたが、現在はリサイクルが可能な紙製に限られるなどパッケージ素材の規制があります。
人気が出てきている日本産和牛については、日本国内の屠畜場からの各種衛生証明書を添付する必要があるなど多くの規則が存在します。しかし、一旦それらの規則をクリアすれば例えば鹿児島牛(A5級)などは、まだまだ少量輸入で高額単価ではあるものの、現地の消費者に喜ばれることになり、輸出拡大につながります。
輸入時にはAustralian Federal Government、Border force(ABF)、Department of Agriculture, Fisheries and Forestry(DAFF)管轄下に於いて多種の申請・検疫・税徴収・物品・宣誓(商品価値の証明)など様々な手続きが必要となります。現地の輸入業者や関連の方々も力にはなりますし、日本貿易振興会(JETRO)がありますので相談されると良いでしょう。
これら各種輸入規則に関しては輸出を考え始める際に日本側では輸出業者、現地側では輸入業者と十二分に確認作業が必要となります。日本を出港後に規制があることが分かり、輸入貨物が廃棄処分されるという究極の失敗にならないように早い段階から対処してください。
ただし、一回確認してしまえば後々の定期的な輸出入が楽になります。
3. 物流の落とし穴
通関後、港湾施設からの輸入業者倉庫までの移動にも落とし穴があります。両国とも労働者保護に関する法律が厳しく、残業や週末、祝日、サマーホリデー期間中は物流に多くの支障が発生します。冷凍、保冷食品はじめ、袋詰め食品でも炎天下のコンテナ内に放置される場合もあり、全損となったケースも聞いております。最近、人気が出てきてきている(特に日系レストランで)吟醸酒は温度管理を怠ると商品価値がなくなるなど大変です。
オーストラリアの場合ですと、オーストラリア最大のコンテナ・貨物港であるMelbourneですが、Sydneyまでは880KMも離れており、車だと高速を使って休まず走っても9時間程の距離があります。
オーストラリアは日本国土の20倍もあり、夏季(日本は真逆の冬)には気温40度超えは当たり前、東から西海岸まで飛行機で5時間という広大な大陸だということも覚えておいてください。
またニュージーランドですとAuckland港が輸入ポイントとなります。アジア系、日系が多く住む地域は他にChristchurchなどがありますが、この2都市を中心に物流を考えるとオーストラリアよりは問題を生じるケースは少ないかと思われます。
オーストラリア・ニュージーランドへの輸出では、港に到着するまでではなく、通関後に輸入業者の倉庫や販売先へ届くまで、適切な温度を維持できるコールドチェーンを確保することが重要です。
具体的には、輸入業者や物流事業者と連携し、通関にかかる想定日数、港での保管環境、冷蔵・冷凍設備の有無、国内配送時の温度管理、祝日や長期休暇による遅延の可能性を、出荷前に確認しておきましょう。必要に応じて温度ロガーを使用し、輸送中の温度履歴を記録することも有効です。
また、遅延や設備トラブルが発生した場合の連絡先や代替保管場所、品質に問題が生じた際の責任範囲についても、関係事業者間であらかじめ決めておくことが望まれます。
商品の品質を守るためには、輸送距離や気候だけでなく、通関後の保管・配送までを含めて物流を設計し、不測の遅延にも対応できる体制を整えることが、物流上の落とし穴を避けるポイントです。
4. 販売は輸出した後が本番
日本を出て、厳しい通関も通り、輸入卸業者の倉庫に無事に着いた商品ですが、輸出前には十分に通関、食品検査、各種規制・規則、梱包パッケージ素材、物流、人種別居住区など理解されていたかと思います。一方、無事に輸入された商品の販売広報活動はどうされているでしょうか。現地の日本食材の卸・小売業者等にお任せしていることが一般的と思います。しかし、これら企業は数千種類の商品を扱う中で、特定の商品の宣伝をしてくれることはまずありません。あるとすれば日本国内の製造業者・輸出業者などが費用を負担しての試食・試飲会やイベントのサポート程度はあるかもしれません。
両国は多民族国家であり、日本国内の様な単一民族ではありません。先ほど述べましたように現地の民族構成や住居地などを理解した上で、消費が定着するまでは継続的な販売促進活動が必要となります。輸出して終わりではありません。輸出はしたのだけれども追加のオーダーがなかなか来なかったり、現地小売店から販売が思わしくないとの情報が寄せられたりすることがありますが、それは現地の消費者が商品を知らない、見たことない、食べたことないということが主な理由となります。せっかく原価で一回目の輸出を試みたり、少量を無償で提供しても、後に続く販売促進活動が無いとそのような結果になってしまいます。
5. 現地で有効な広報・販促方法
具体例としてお酒があります。現地の卸業者様では多くの日本酒銘柄を扱われていて、一酒造メーカーの宣伝活動はしませんが、お酒全体としての試飲即売会を行う機会は多いです。日本から参加可能な酒造メーカーが現地入りしてイベントを行うと規模も大きくなり、来場者も増えます。オーストラリア内では年間を通して定期的なSake Festivalが開催されています。毎回大盛況であり、来場者も5千から9千人にも上ります。
ニュージーランド国内でJFC(食品専門商社)とSake Festivalを行った際には開場前にもかかわらず長い行列が出来ました。実測8千人を超えた会場内は多くのアジア系や中国系の方々で大賑わいでしたが、「純米大吟醸を温めて呑むのか?」と言う方がいるなど、日本酒の知識がない方も多く、飲み方、楽しみ方を丁寧に教える必要があります。そうすればワインやビール同様に今後大きな販売量を見込めるとの感触を弊社は得ることができました。

JETRO、日本国大使館とお酒の試飲会を行った際は、会場をあえて現地消費者が通うワイン、ビールを扱う酒店を選択し、入店してきたお客様に「This is a Japanese Sake, would you like to try it」と試飲を勧めて、飲んでいただき生の声を聴くことが出来ました。今後の販売に於ける酒類、価格設定、在庫量などの情報を得ることができました。
日本国大使館共催のJapan Festivalでは弊社も出展を行いました。その際にはキッコーマン様から卓上醤油600本の提供を受け、来場者に配布し、アンケートに記入していただき、多くの現地消費者の嗜好、消費目的、購買パターンを知ることが出来ました。
そのようなイベント、試飲会、試食会などを行う際は、両国とも英語圏ですので、日本から来られる販促・輸出・製造担当者は必然ながら英語が出来ないと現地入りする意味がありません。試飲や試食していただいた方に直接感想を聞かなくてはなりません。通訳を通しますと微妙な「吟醸はなんで甘くないのか?」「この和牛はやわらかいが脂っぽくて。。」などと消費者の口から正直なコメントを引き出せない場合があります。
日本米を煎ったお茶の販売に関しては年間を通して広報活動を行いました。商品のティーバッグも地上波テレビ、配信放送(ネットストリーミング放送)、SNS等にて宣伝活動を行いました。商品そのものはオーガニック日本産米で、ノンカフェインという高品質なお茶でしたが、残念ながら販売量は伸びませんでした。想像するに商品の名称がノンカフェインでありながらカフェ(café)と名付けた事に由来するかと思っています。イベント会場にて試飲ブースを設営し、来場者に提供しましたが、「カフェインは飲めません」と通り過ぎる方が大勢いました。日本国内とは異なる現地の方々にスムーズに覚えて頂ける商品名を考えることも重要ではないでしょうか。

多民族国家ですので、毎週末のようにどこかの国の飲食料品のイベントが開催されています。それらイベントへの出展は高価ではありませんので、人種により異なる嗜好を調査するには適しています。
このため、大きなFood Showなどに出展参加するのも一案です。輸出されて現地卸業者の倉庫に商品が入っているならなおさらイベントや展示会に容易に参加できます。週末開催で3 万人以上の来場者があるイベントは多々ありますので現地の輸入卸、小売業者から開催日程、出展ルールなどの情報を得て、参加してみるのも費用対効果もよいのではないかと思われるのでお勧めします。また、そのようなイベントには現地の食料品販売関連企業の方々も来場していて、業者間の情報交換にも繋がるかと思います。
日本の政府や、自治体による販売促進活動は日本国内で立てられた計画や予算通りに物事が進められますので、現地消費者との交流より予算通り、計画通りということに重点を置いているように思いますので、費用対効果は残念ながら現地在住者から見ますとあまり良くないのかなと感じています。何はさて置き、とにかく消費者の「口に入れてみてナンボ」の世界ではないかと思います。
6. 現地メディアを活用する意義
日本からの発信には物理的な限界があります。世界中で億単位のSNS系情報が発信されている中で、日本語の商品名をローマ字で発信されても広く周知するには無理があります。Katsuobushi、鰹節ですが(鰹節は英語名でBonito Flake)、海外の方がネットで検索する際にローマ字を打ち込めるはずがありません。日本産の食材商品名は基本的に日本語とローマ字表記が多く、商品名を海外の方々に見て頂くことは難しく、やはり英語で説明や表記をしなくてならないのかなと思います。
当地でも日本同様にメディアは大きく分けてドメインサイトを利用した自社広告、SNS、紙媒体、配信放送、地上波、ラジオ、屋外の大型看板などがあげられます。それぞれに長所短所があるかと思いますが両国では英語が基本となります。また国柄にも大きく影響されます。ネットを主に利用している人種や年齢層があったり、大陸内部ではラジオや地上波などの電波が届かなかったり、広範囲を対象とした場合に雑誌やミニコミ誌は高価な送料がかかります。また、オーストラリア東海岸での夕刻プライムタイムCM放送は西海岸では午後の昼下がりになるなど時差もあり、地域やメディア選択は現地の広告代理店、日系広告代理店、または日系小売店が利用されている広告代理店の方々と予算、メディアの選択など相談されることをお勧めします。現地在住されている方は適切な方法を提案してくれると思います。
弊社のような広範囲をカバーできる配信放送(Streaming TV Service)のメディアにおいても長所・短所があるかと思いますが、世界の“放送”トレンドとしては地上波放送から配信放送に移行しております。またSakura TVの配信放送サービスの視聴者は日本が好きな現地消費者となります。
無事に届いた食材の継続的な販売のお手伝いが両国で出来ればと思っております。
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まとめ
オーストラリア・ニュージーランド市場への進出では、商品を輸出すること自体がゴールではありません。
多民族国家としての市場特性を理解し、食品規制や物流条件を事前に確認したうえで、輸出後も現地消費者に向けた継続的な広報・販促活動を行うことが重要です。
現地の輸入事業者や専門家、メディアなどと連携しながら、地域やターゲットに合った販売方法を検討することが、継続的な取引につながります。

Sakura Television Network Limited CEO 関川まさ
オーストラリア・ニュージーランド在住55年。
現地で訪日観光プロモーション、日本文化・日本食に関する情報発信や、日系企業・食品事業者の販促支援に携わる。
生の現地市場の特性を踏まえたメディア展開、イベント、試食・試飲プロモーションなどを通じ、日本商品の認知拡大と継続的な販売を支援している。
※本記事は関係者の取材・発言をもとに構成されたものであり、記載内容は執筆者または取材対象者の見解によるものです。農林水産省の公式見解や方針を示すものではありません。